2011/05/28

ヌビアのミイラが現代の疫病の歴史を語る 住血吸虫症の研究成果

マンソン住血吸虫
ナイル川流域から発見されたミイラの分析によって、古代の灌漑技術がいかに水生の寄生虫による病気「住血吸虫症」の蔓延を促進していたかが明らかになった。住血吸虫症は現在でも2億人に感染しているといわれている。

現在のスーダンにあたるヌビアで発見されたミイラの分析によるもので、古代の人々における病気の流行について詳しく知ることができたのは初めてのことである。また、当時の人類による環境の改変が、病気の流行につながるメカニズムについて解明している。

アメリカの自然人類学雑誌「The American Journal of Physical Anthropology」に掲載された研究であり、エモリー大学のAmber Campbell Hibbs氏を中心に書かれたものである。
研究の共著者には人類学の専門家に加えて、伝染病学者も入っている。

分析に使用したミイラの25%は1500年前のものであり、ミイラからは「マンソン住血吸虫」が発見された。
住血吸虫の一種で、現在の灌漑農耕の現場でも見られるものである。

我々は古代の人々が環境に翻弄される生活を送っていたと考えがちだ。しかし、この研究は、古代の人々が現代人と同様に、自分達の健康に害を与えるほどの環境の改変をしていたということを示している。

「過去の住血吸虫症の影響を理解することが、今日最も流行している寄生虫病の1つをコントロールしていく方法の発見に寄与できるのではないか、と我々は考えている」とCampbell Hibbsは言っている。

住血吸虫症は、淡水にすむ特定の巻貝にいる寄生虫によって引き起こされる。
寄生虫は淡水の中に含まれ、水と肌が接触した人間に感染するのである。

感染によって貧血や慢性の体調不良に見舞われ、成長や認知発達を損ない、内臓にダメージを与え、他の病気のリスクを上昇させてしまう。

住血吸虫症の証拠がナイル川の流域で検出されたのは1920年代にさかのぼる。
しかし、人体の抗原・抗体の分析まで可能になったのは最近のことである。

この最新の研究では、マンソン住血吸虫を有する古代ヌビア人の乾燥した組織を調査した。
ヌビア人のミイラは2つの地方から発見されたもので、クルブナルティ(Kulubnarti)とワディ・ハルファ(Wadi Halfa)のものがある。

現在のスーダンの農耕
クルブナルティの人々は1200年前のもので、ナイル川の水位平均が最も高かった時期であり、灌漑農耕を行っていた考古学的証拠は発見されていない。
一方、より南のワディ・ハルファの人々は1500年前のもので、この時期のナイル川の水位平均は比較的低かった。
考古学的証拠によって、当時のワディ・ハルファの人々は、複数種類の穀物を維持するために、運河による灌漑農耕を行っていたことがわかっている。

組織の分析から、ワディ・ハルファのミイラの25%からマンソン住血吸虫症に感染しており、クルブナルティの方では9%であった。

灌漑用の運河によって貯水された流れのない水は、マンソン住血吸虫の感染につながるタイプの巻貝が好む環境である。
ビルハルツ住血吸虫症という病気につながる種類の巻貝は、より酸素を多く含む、流水を好むという特徴がある。

「以前は、古代の人々の住血吸虫症はビルハルツ住血吸虫によるものであり、マンソン住血吸虫はヨーロッパ人から伝えられた集約的な灌漑農法が導入された後に流行すると一般的には考えられてきた」とCampbell Hibbs氏は述べている。「それはアフリカで行われている出来事に対して、環境をコントロールするためのもっと進んだ技術が必要で、伝統的な灌漑農法は環境に大きな影響がないと考えるヨーロッパ中心主義的な見方なのだ」

共著者で人類学者のGeorge Armelagosは30年以上にわたってヌビア人の研究を行ってきた。
分析の結果、2000年前にヌビア人は日常的にテトラサイクリンを消費していたことが判明した。
テトラサイクリンはいわゆる抗生物質の一種であり、ビールから得ていた可能性が高い。
抗生物質の効果が得られるように、意図的にビールを醸造していたと考えられるほど、高いレベルで含まれていたという。

「ヌビア人は他地域の同時代の人々よりも、ずっと健康的な姿だったかもしれない。それは細菌負荷を減少させる乾燥した気候と、彼らがテトラサイクリンを常用していたことによる」とArmelagos氏は述べている。「しかし、この研究結果から、住血吸虫症の流行による負荷は極めて重かったことがわかった」

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