2011/07/21

世界屈指の古代遺跡に戦争の危機 リビア

リビアは5つの世界文化遺産を有し、古代ギリシア、ローマの極めて残存状態の良い遺跡に恵まれている。
この古代遺跡の保存修復・復元作業を行う国際的なプロジェクトが立ち上げられているが、2011年に始まったリビア騒乱が行く手を阻んでいる。

リビア北東部のシャッハート村は最近反政府デモがあった場所であり、現在反政府軍の支配下にあると言われている
ここはキュレネと呼ばれる古代ギリシアの植民都市がかつてあったところで、リビアおよび地中海世界においても群を抜く巨大な遺跡が残っている。
リビア東部は「キレナイカ」と呼ばれることがあるが、これは古代都市キュレネの名にちなんでいる。
キュレネ遺跡

キュレネは紀元前631年に建設され、テラ島(現在のサントリーニ島)からの植民都市として始まった。
(テラ島は紀元前16世紀に火山の噴火によって埋没したミノア文明の都市アクロティリ遺跡で有名である)
キュレネは商業の中心地として急激な発展を遂げ、紀元前5世紀には最盛期を迎えた。
その後キュレネはプトレマイオス朝の一部となり、紀元前74年にはローマの属州となった。

キュレネは古代地中海世界で名をはせた大都市の1つであり、1000年に及ぶ歴史を有している。
「キュレネの考古学遺跡」として世界遺産に登録されており、神託で有名な古代デルフォイをモデルにした神殿、墓、アゴラ(広場)、円形劇場、ギムナシウム(競技の選手が訓練する公共の施設)が現存している。
キュレネのアゴラ
現在のキュレネの修復活動は円形劇場を中心に行われている。
円形劇場はキュレネにあるアポロン神の聖域に位置している。
円形劇場は紀元前6世紀に建設されたもので、周辺の遺構とともに人気のある観光スポットになっている。
キュレネの円形劇場
アポロン神の聖域
しかしながら、治安の悪さ、略奪行為もさることながら、過去に行われた不適切な修復措置によって劣化しやすい状態になっており、危険な状態に陥っている。
カリフォルニアに本拠を置く国際文化遺産保護団体のGHF(Global Heritage Fund)は、今後この状況が改善されるように努力を続けている。

イタリア・ナポリ第2大学、リビア考古局、リビア文化省の協力のもと、GHFは保存修復専門家の招集やサイトマネジメント・プランの策定を主導している。
サイトマネジメント・プランには考古学的調査や遺跡のクリーニング、古代に利用された材料と技術を用いて行われる復元作業、現地リビア人のスタッフのトレーニング、観光客のアクセス方法や遺跡の説明表示の改善などが含まれている。

GHFのリポートにはこうある。
「北部アフリカの古代遺跡に対する優れたマネジメント・プランの確立が現在求められている。我々の作成したプランが完成したあかつきには、この地域一帯の古代遺跡に対するマネジメント・プランの模範例になると期待している」
すでに、事前調査、写真記録、写真測量調査などは終了しているそうだ。

現在、GHFはナポリ第2大学の調査隊とも共同で作業しており、遺跡における緊急的な保存修復処置も行っている。
長期的には、キュレネ遺跡のマネジメントが国内でできるようになり、遺跡の改善、観光プログラムやインフラの改善によって、旅行産業などを通じて大きな経済的利益を国や地方自治体にもたらすようになれば、とGHFは期待している。
「このプロジェクトは文化遺産が地元の経済やビジネスの発展を触発するために用いられることを目的としている。文化資源の責任ある発展を通じて、リビアのレプティス・マグナ(古代ローマ時代の遺跡)とキュレネは、地中海における古代ギリシア文化観光の最高のスポットとなる可能性を秘めている」

このようなプランはあるがしかし、キュレネやレプティス・マグナのような大遺跡は国際政治問題による情勢不安と紛争に直面している。
これらの問題は、リビアにある世界屈指の文化的・歴史的遺産を危機に陥れている。
伝えられているところでは、レプティス・マグナにおいてカダフィ軍がロケットランチャーを含めた兵器の設営を行っているという。
これは、NATOで現在カダフィ政権打倒に主導的な立場をとっているアメリカが、国連の文化遺産に対する保護条約(ハーグ条約)に2008年に加入しているため、現カダフィ政権が逆手にとっていると考えられる。
この法律にしばられているため、アメリカ軍はたとえ戦時下であっても文化的な遺産を攻撃することができない。
レプティス・マグナ遺跡
にもかかわらず、最近のCNNの報道によると、NATOの空からの軍事行動を統括している部署では、レプティス・マグナに駐留しているカダフィ軍を、ターゲットから除外しない方針であることを表明しているという。
さらに紛争はキュレネにも近づいており、最近カダフィ軍の傭兵部隊がシャッハートの学校で反乱軍に捕らえられたようであり、キュレネの古代遺跡からも、遠く離れていない場所なのである。
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