2011/07/11

旧約聖書のペリシテ人の姿を解き明かす 古代都市ガトの発掘調査

イスラエルのテル・アル=サフィ遺跡は、古代イスラエルの主要な敵として聖書に登場するペリシテ人の都市、ガトがあった場所として知られている。
発掘調査が現在進行中で、古代のペリシテ人の姿について、考古学的な成果から新たな事実が分かってきている。
現在のテル・アル=サフィ
毎年発掘が行われており、先日今年の調査が開始されたようだ。

約3000年前に、ペリシテ人は地中海岸周辺に居住しており、ガトは新たに開拓された都市だった。
この都市で最も有名な住民は、サムエル記にある羊飼いの若者ダビデの投石によって倒された巨人ゴリアテである。
「ペリシテ人は聖書の物語の多くの部分で、絶対的な他者であった」と発掘に携わっているイスラエルのバル・イラン大学の考古学者Aren Maeir氏は語っている。
Maeir氏は1996年に調査プロジェクトを開始しており、今年の調査ではカナダ、韓国、アメリカやその他の国の調査者総勢100名が参加しているという。

遺跡からは古代ギリシア様式の文様がある土器片が発見されており、ペリシテ人の起源がエーゲ海方面にあることを示唆している。
ペリシテ人は現在のギリシア地域から紀元前1200年ごろに海を渡って到来した。
そしてアシュケロンやアシュドドなどの主要な港、イスラエルの都市群、現在のパレスチナの領域であるガザ地区などを支配するようになった。

ガトの遺跡の発掘によって、ペリシテ人達は在地の文化を一部受け入れつつも、自分たちのルーツを忘れていなかったことがわかっている。
例えば、この地域に到来してから5世紀たった後でも、彼らはギリシア語の名前を持つ神々を崇めていた。

調査によって、ペリシテ人はエーゲ海地域と同様、レンズ豆を多く摂取していたことがわかっている。
遺跡で廃棄されていた動物骨の調査から、彼らは豚と犬を食べていたようである。これらはイスラエル人とは異なっており、イスラエル人はこれらの動物を不浄なものとみなしていた。この戒律は現在のユダヤ教にも残っている。

また、ガトの町が紀元前9世紀に破壊を受けたことも発見された。
市の周囲には包囲群によって作られた溝や盛り土が出土しており、現在でも都市があった丘陵部の周りに黒いラインとなって見えている。

この時期に起きたガトの壊滅はアラム人の王ハザエルによって紀元前830年に行われたもののようである。
この出来事は旧約聖書の列王記に言及されている。

このように、ガトは紀元前10世紀から前9世紀にかけてのペリシテ人の生活の様子を明らかにする、極めて豊富な物的証拠を提供してくれている。
その中にはイェルサレムのダビデ王やソロモン王によって統治されていた時代も含まれる。
他のペリシテ人の町の遺跡は、その前後の時代の情報は提供しているが、この重要な時代の資料がない。
ガトは、そのギャップを埋めてくれているのだ。

紀元前604年には新バビロニアのネブカドネザル王によって侵略を受け、ペリシテ人の町はその支配下に入った。
その後の時代の痕跡は残されていない。

1099年にヨーロッパから来訪した十字軍はガトがあった場所に要塞を築き、その後この地はアラブの村テル・アル=サフィとなり、1948年のイスラエル建国の元になった戦争で廃墟と化した。
現在では、ガトは国立公園となっている。

1955年には数マイル南にキリヤット・ガトと呼ばれる町が建設された。
この町の名前はガトにちなんでつけられているが、この場所にあった遺跡がペリシテ人の遺跡だと誤解されていたことによる。

ペリシテ人の記録は、偏った見方ではあるものの、ヘブライ語聖書に残されている。

英雄サムソンはペリシテ人の女性と結婚しており、ヘブライ人と小競り合いを続けていたが、裏切られ、捕えられて、目を潰され、ガザの神殿に幽閉された。
しかし彼は力を取り戻し、つながれていた神殿の二本の柱を倒して、中にいたペリシテ人全員を道連れにして死んだ。

ペリシテ人を切りつけるサムソンの像
ガトからは2本の柱を持つ、巨大な構造物の跡が発見されており、おそらくは神殿だという。
Maeir氏はサムソンの話が書かれた時代に知られていたペリシテ人の神殿建築の様式だと述べている。

ガトではさらに、ゴリアテと良く似た名前が書かれた土器片が発見されている。
この名前はインド・ヨーロッパ語族の名前であり、在地のカナン人やイスラエル人が用いていたセム語とは異なるものである。
これらの発見から、ペリシテ人がこうした名前を用いていたということがわかる。

遺跡の調査から、ゴリアテの物語が強力なペリシテ人の都市ガトとイェルサレムの諸王との闘争といった史実を忠実に反映したものであることがわかってくる。

Maeirはこう語っている。
「ダビデが投げた石によって額に穴があいた頭蓋骨が、いつか見つかるだろうと言うつもりはない。ただ、聖書の物語が当時あった文化的な環境を反映したものである、ということを、ガトは教えてくれるのだ」

In Israel, diggers unearth the Bible's bad guys

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