2012/04/03

古代ペルーの伝説に登場する英雄は実在した?史実性を考古学から探る

1530年にスペイン人がペルーを訪れ、文字がもたらされるよりも前の時代には、古代ペルーの伝説は口承を専門とする者によって、世代を超えて伝えられていた。彼らは、伝説の英雄と悪者達の物語を完璧に伝えることができるよう、訓練されていたという。

これらの物語の中でも特筆すべきは「ナイムラップ」の伝説である。ナイムラップは北部ペルーのランバイエケ周辺を支配した王朝を築いた伝説上の人物である。
ナイムラップを表した図像
伝説によると、ナイムラップはバルサの筏の大船団に、正室と多くの側室を含む側近達とともにやってきた。

彼は緑色の石でできた神像を持っており、像を納めるための宮殿を建設した。
宮廷ではインディアンから大量に取り上げた貝が吹かれ、粉々に砕いた貝殻を僕達が床にまき、その上をナイムラップが歩いていった。
僕達は入浴の世話から彼の羽のついたシャツの番人まで、彼の望むものは全て世話をした。

ナイムラップの長い治世の間、彼が死ぬまで人々は平和を享受した。
尊敬を集めた指導者が人間としての死に屈服したということが知られないように、彼が過ごしていた部屋に埋葬されることで、彼の死は側近たちには秘密にされた。
ナイムラップの謎の消失を悲しむあまり、多くの側近たちは自分の住む家を捨て、彼を探しに旅に出た。

ナイムラップの捜索の旅は、ある意味、現代において再び始められたと言える。
カリフォルニア大学ロサンゼルス校の考古学者は、この伝説が現実の世界で起こったことなのかどうかを確かめるために、1980年にランバイエケの2つの近接する遺跡、チョトゥナとチョルナンカプで発掘調査を開始した。

その考古学者Christopher Donnanによる伝説の分析と2つの遺跡の発掘成果については、「Chotuna and Chornancap: Excavating an Ancient Peruvian Legend」という本にまとめられている。


「我々は伝説の真実性を確かめるために、まず考古学的調査から始めた」とDonnan氏。
彼は人類学の名誉教授であり、40年以上の研究生活の中で、インカに先行するプレ・インカ期に高度な文化を有していた「モチェ文化」に関する重要な墓や遺跡を発見してきた。
「私はナイムラップが、私の主要なフィールドであるモチェの人だったのではないかと思っていた」

しかし、チョトゥナとチョルナンカプでの3度にわたる調査では、モチェ文化の土器は破片の1つでさえも発見できなった。
その代り、住居、ピラミッド、宮殿、周壁、金属製品加工が行われた職人街が発見され、大量の土器、埋葬、色鮮やかな壁画を持つ壁やその他の遺物群が出土した。

伝説が始めて文字による記録となったのは、1586年にMiguel Cabello de Balboaが書いたものだった。
スペインがインカ帝国を征服し、ペルーを植民地化してからわずか50年しか経っていないころだ。

伝説はナイムラップの9世代後、最後の子孫となるフェムペレックの凋落によって終わりを迎える。
フェムペレックは宮殿から緑の神像を移動しようとしたのだが、魅力的な美女に姿を変えた悪魔が彼の前に現れ、妨げられてしまう。
最後には、恐ろしい雨が降り始め、谷を30日に渡って洪水に陥れた。
その後、飢饉と不作の年が訪れた。
激怒した臣下はフェムペレックを捕え、手足を縛り、海に投げ込んだことで、ナイムラップの築いた王朝は終焉となった。

発掘の成果はナイムラップの実在を証明するものではない、とDonnan氏は述べている。
「もしキャメロット(アーサー王伝説にある王国の都)の場所を知っていて、3年に渡る発掘を敢行したとして、どうやってアーサー王が実在して、そこに住んでいたと証明することができるのか?たとえ大きな円卓を発見したって、これがキャメロットだと言えるだろうか、そんなことはないだろう」とDonnan氏。

しかし、Donnan氏による調査は、発見した遺跡はナイムラップとその後継者が支配していた場所である可能性を示す、もう1つの根拠を発見することになる。
チョトゥナ遺跡の風景 
放射性炭素による年代測定では、最初期の建築活動が紀元後650~700年に行われていたことになる。
発掘を進めていくと、遺跡の最下層には人が居住していた址があり、日乾しレンガによって作られた構造物を調査隊は発見した。
日乾しレンガは時代によって3つの異なる形のものが利用されていたことから、レンガの形が建設された年代を知る手掛かりとなる。
後の時代に当たる日乾しレンガには洪水によって受けた浸食とみられるものがあった。

これらは、ナイムラップとその後継者が支配していた時代と一致するという。
これによって伝説が史実であることが立証できたわけではないが、有力な証拠であることに変わりはない。

現在、チョトゥナとチョルナンカプの発掘はペルー人考古学者によって、2006年から継続的に行われている。
ナイムラップ伝説の史実性については進展がないものの、チョトゥナには遺跡に博物館が建設され、訪問者は遺跡で発見されたものやナイムラップの伝説について学ぶことができる。

「いつか、他の考古学者たちが、われわれが始めた仕事を受け継いでくれることを願ってやまない」とDonnan氏は語っている。
Archaeologist investigates legend of mythical ruler of ancient Peru


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