2011/10/24

ネアンデルタール人はなぜ短足だったのか?

ネアンデルタール人の足は現代人よりも短いことが分かっているが、多くの研究者は寒冷な気候が原因と結論づけていた。
ドイツ・エルクラートにあるネアンデルタール人の像
しかしネアンデルタール人の短い足は、彼らが住んでいた山がちな地形を歩くのにはむしろ便利だった、ということがジョンズ・ホプキンス大学の研究者によって明らかにされた。
足の短さと山がちな環境を結びつけることで、その他の多くの動物にみられる手足のプロポーションについても説明することができるという。

「ネアンデルタール人を含め、手足の短い動物は移動の際により多くの歩数が必要になるため、移動に適していないという結論になってしまっていた。しかし、こうした研究結果は平地を想定していた。我々の研究結果から、ネアンデルタール人の住んでいた、坂の多い、山がちな環境では短い足がより有効に働くということが分かった」とジョンズ・ホプキンス大学のRyan Higgins氏は述べている。

ネアンデルタール人は20万年前から4万年前にヨーロッパや西アジアに生息していた旧人で、この時期は極めて寒冷だった。
現代人に比べて背は低く、足は短く低い位置についている。
寒冷地に生息する哺乳類は温暖な地域のものよりもコンパクトで、体表の面積が小さいため、こうした動物の短い手足は、その地域の気温によるものと結論づけられていた。

Higgins氏のグループはこれに対して異なる視点から分析を行った。
足の長さと丘陵の傾斜度との関係による数学的なモデルを用いることで、坂のある環境では足の長い現代人よりもネアンデルタール人の方が移動においてアドバンテージがあることを計算によって導き出した。
ネアンデルタール人が生息していた地域は現代人が生息している場所よりも全体的に山がちな環境なので、ネアンデルタール人がこの環境において現代人よりも動きやすい形へ適応していたと考える方が、より正確な結論というわけだ。

しかしHiggins氏らはここで終わらなかった。
「我々の分野では、山での生活が短い足への進化を促したといった、環境への適応を証明する際には、1つの種を見るだけでは不十分だ。同じ状況にある多くの種を調べ、同じパターンがあるかを繰り返し探す作業を行う。我々は山での環境の方が短い足を生み出しやすいかどうかを検証するするために、ネアンデルタール人と現代人の環境を考慮して、同じ足の構造を持つ動物を平地と山の両方から確認する必要があった」とHiggins氏は説明している。

Higgins氏らはガゼル、ヤギ、羊などのウシ科の様々な種類を調査することに決めた。
これらの哺乳類は平地と丘陵地の両方に住んでおり、温暖な気候と寒冷な気候の両方で生息しているからだ。
ウシ科の動物の骨に関する書物からデータを集めることで、一致するパターンが発見された。
同じ気候であっても、山地に生息するヒツジやシロイワヤギなどのウシ科の動物は、アンテロープ、ガゼルのような平地で生息する同種のウシ科の動物よりも全体的に足が短いことが分かったのである。

より近い種類に限定してみてみると、この説はより説得力を増す。
ガゼルのほとんどは平地に生息するが、山で生息する種類もあり、同じ気候であっても比較的短い足を有する。
ヤギ・ヒツジの種類でも同様の結果が得られた。

「生物学にはベルグマンの法則とアレンの法則というものがあって、寒い環境では生物は体のサイズに比して体表面積が小さく、手足が短くなると言われている。我々の研究から、地形も手足の構造に影響を与えているということがわかった。手足のプロポーションに関する議論に地形というトピックを加えたことによって、生物の環境への適応に対する理解をより正確することができたと我々は考えている。こうした理解は、ネアンデルタール人に限らず、多くの化石種の特徴を解釈する上で有効なものになるだろう」

Solving the mysteries of short-legged Neanderthals



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