2012/03/01

「バグダッドの雪」 古文書から古代の気候を復元する

アラブの古文書の天候に関する記述から、古代の気象を復元する研究が行われている。
写真はアッバース朝の文書
イスラムの黄金時代である紀元後816~1009年のイラクの学者や歴史家による記述、日記には、異常な気象パターンの解明につながる情報が残されているという。
過去の気象の復元は現代の天候との比較や、気候変動の解明に役立つ。
自然界には、木や氷床コア、サンゴ礁などが過去の気象に関する情報源となるが、人間の観察による情報は、史料に限られている。

現在に至るまで、天候の詳細な情報に関しては第2次大戦での空軍の記録や、18世紀の船の記録に頼っていた。
一方、スペインのエストレマドラ大学の研究者らは、9世紀から10世紀のアラビア語文書に注目した。
文書は、当時の社会や宗教上の出来事に関するものであるが、異常気象についても記録されている。
主に、旱魃や洪水など、広く社会に影響を与えた出来事に関するものである。
また、古代のバグダッドでは稀だった、霰を伴う嵐、河の凍結、降雪などの記録も残っていた。

バグダッドは古代のイスラム世界における交易や商業、科学の中心だった。
891年にはベルベル人の地理学者アル=ヤアクビーが、世界にバグダッドに肩を並べる都市はないと書いているが、当時の気候についても記していた。

後世のバグダッドへの侵略や市民の争いによって、多くの古文書が失われた。
しかし、残存していたアル=タバリ(al-Tabari 、913年)、イブン・アル=アティール(Ibn al-Athir、1233年)、アル=スユーティ(al-Suyuti、1505年)などの文書から、いくつかの気象に関する情報を得ることができた。

文書を調べた結果、10世紀の前半には寒冷になる時期が多かったことがわかった。
この中には920年7月の急激な温度低下や908年、944年、1007年に降雪の記録があった。
これに比べて、現代のバグダッドの降雪の記録は2008年しかなく、今イラクに生きている人々にとっては唯一の経験だ。
これらの記録は、中世の温暖な時期の直前に、急激な温度の低下があったことを示している。

研究を主導するFernando Domínguez-Castro博士は、920年7月の急激な温度低下は火山の噴火が原因と考えているが、この説を裏付けるための研究がさらに必要だと述べている。

イラクではより高い頻度で重要な気象の変化があり、現在よりも厳しい寒さに見舞われていたことが史料から分かってきた。
この研究はイラクに焦点を当てたものだが、この手法は気象記録の器具や公的な記録が導入される前の、他の時代・地域にも適用できる可能性を秘めている。

歴史家と気象学者が手を組んで、イスラム世界中の史料から気象に関する情報を集めていくことで、古代の気象の解明につながることが期待できる。

Ancient Arabic writings help scientists piece together past climate


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