2012/02/15

古代エジプトの聖地アビドスで動物のミイラを大量に発見

古代エジプトの王朝を通じて「聖地」とされていたアビドスで83体もの動物のミイラが発見された。
その他にも、王の彫像などが出土している。
アビドスの風景(ウンム・エル=カアブ)

これらの発見は、カナダ・トロント大学のMary-Ann Pouls Wegner教授が率いる調査隊によるものである。
教授らはアビドスで倉庫と推測されている建造物の発掘を行っていた。
建造物の壁は厚さが2mもあり、そのデザインから宗教活動に関連していたと考えられている。
わずかに残存していた碑文には、セティ1世の名前が残っていた。
セティ1世は新王国時代第19王朝の2代目のファラオであり、紀元前1300年頃にエジプトを支配していた。

紀元前3000年頃の、古代エジプト王朝最初期の王たちは、このアビドスに埋葬された。
古代エジプト人は冥界の神オシリスがアビドスに葬られたと信じており、オシリスが埋葬されたと伝えられている墓があった。
神話では、オシリスは兄弟神であるセトに殺されてバラバラにされてしまった。
オシリスの妻イシスが彼の体を集めて、彼を生き返らせたと言われている。
そしてオシリスの息子ホルスがセトと闘ったのである。

アビドスにはオシリス神に捧げられた神殿が建立され、毎年盛大な祭が行われた。
祭では、オシリス神の像を載せた神輿が神殿から墓へと運ばれ、一晩墓に神像を置き、儀式が執り行われるのである。
オシリスの神輿が神殿に戻ることで、祭は終わりを迎える。
この祭のご利益にあやかろうと、王や一般の人々は自分たちの祠堂を神輿の通り道に築き、永遠にこの祭に参加することを願ったと言われている。

Wegner教授らが発見した動物のミイラは、倉庫と推測される建造物の部屋の1つに隠されており、その数は少なくとも83体になる。
ミイラは2000年以上前のものだという。
動物の多くはイヌであるが、ネコ、ヒツジ、ヤギなども発見されている。

調査隊はこれらの動物が供物として捧げられたものと推測しており、倉庫よりも後の時代の墓に由来するものと考えている。
しかし、墓そのものはまだ発見されていない。

イヌが多いことは、アビドスにおいてオシリスより前から信仰されていたジャッカルの神、ウプウアウトに関連している。
神殿に訪れた人々は、供物として神に捧げるイヌを得ることができた、とWegner教授は考えている。
「これは、言葉による、もしくは石碑に刻まれた祈祷とは別の形の、奉納に関する活動」と教授は述べている。

一方で、イヌの中には、骨が一度折れた後に回復しているものがあるという。
誰かが、供物として捧げられる前にイヌを看護していた可能性がある。

なぜ古代エジプト人がすぐにイヌを殺さずにこのようなことをしていたのかについては、まだ明確な答えに至ってないようだ。
可能性として、神殿で供物を購入する者がいなかったか、そのイヌは誰かのもので、神殿で働いていた者に飼われていたとも考えられる。

動物のミイラが発見された部屋の隣の部屋からは、泥と白アリの糞で覆われた木製の像を発見した。
修復が行われた結果、高さは約65cmであり、ファラオの象徴であるネメス頭巾が被せられていた。
「王の木製の像は極めて少ない」とWegner教授は述べている。

像のプロポーションは新王国時代第18王朝(紀元前約1550~1300年頃)のものと合致するが、腰が細く表現されているという例外がある。

こうした特徴から、この像が女性のファラオであるハトシェプストのものである可能性が指摘されている。

ハトシェプストは壁画や彫像では男性として表現されるが、しばしば腰を細くみせて女性的な要素が付け加えられることがあるという。
また頬や顎の輪郭が若干繊細に描かれることがあるそうだ。
Wegner教授は、ハトシェプスト女王のものである可能性はあると考えている。

調査隊はこの彫像がオシリスの神輿に担がれていたのでは、と考えているが、墓や神殿に置かれていたものである可能性も否定できない。

Wegner教授は、今後もこの地で調査を続けて行くと語っている。

Animal Mummies Discovered at Ancient Egyptian Site


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