2013/01/10

ボランティア奴隷?紀元前2世紀エジプトの不思議な契約

自ら望んで奴隷になるという人は、普通いない。
しかし、紀元前2世紀のエジプトでは、人々が自ら奴隷として神殿で働く契約を結んでいた証拠が残っている。
しかも、彼らは望んで奴隷になっただけでなく、奴隷になるために神殿に費用を支払うことまでしているのだ。
テブトゥニスにあるセベク神殿
コペンハーゲン大学のエジプト学者Kim Ryholt氏の研究によるもので、ファイユーム地方の神殿都市テブトゥニスの古代のゴミの堆積から発見されたパピルスを解読した結果、奴隷の契約に関する文書であることがわかった。

「私はこの日よりあなたのしもべとなり、毎月2と2分の1ケデト(古代エジプトの重さの単位、銅の重さが価値の量を示す)を奴隷の費用として偉大なる神アヌビスに捧げます」

これは100に及ぶ神殿の奴隷の契約に関するパピルス断片の翻訳の一部であり、Ryholt氏が長年かけて収集し、分析を行ってきた。
パピルス文書は違法に盗掘されてきたこともあって、エジプトだけでなくヨーロッパ、アメリカでも発見されている。
例えば、1つの契約の文書がコペンハーゲンと大英博物館に分かれて収蔵されていたそうだ。

これらの奴隷契約文書の中には子孫まで含まれているものもある。

「私と、私の子供、私の子供の子供はあなたのしもべとなります」という記述があったそうだ。

神殿の奴隷がどうやって神殿に寄進する毎月の費用を稼いでいたのかは不明であるが、Ryholt氏は奴隷たちが自分の空き時間に様々な種類の労働を行っていたと考えている。

「古代の奴隷は、現代の例と同様に自分たちで金を稼ぐことが許されいた」とRyholt氏。ではどういうことを行っていたのかについては分からないが、読み書きのできる「プトレミー」という奴隷が「夢判断」を行って稼いでいたという記述が残っているそうだ。

最も大きな疑問は、なぜ人々が、自ら望んで奴隷になろうとしたのかだ。Ryholt氏は、彼らが社会の底辺にいる人々であって、強制労働という最も過酷な運命から逃れるためだったのではと推測している。

この契約によって神殿の奴隷になっている間は、彼らは過酷な強制労働から逃れることができた。過酷な強制労働とは、運河の掘削であったり、命がけのような仕事だ。
神殿での仕事は主に農耕であったと考えられている。

このような強制労働からの逃れ方は、紀元前190年から前130年の約60年間だけ行われていたようだ。
というのは、この時代以外に同様の慣習が行われいてた証拠が残っていないからだ。
当時のこの地域の統治者は、こうした潜在的な労働力を長期間見逃せるほどの余裕がなかったと、Ryholt氏は推測している。

Ryholt氏の論文
A Self-Dedication Addressed to Anubis – Divine Protection against Malevolent Forces or Forced Labour?

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