2011/11/04

古代エジプトのミイラから前立腺ガンの痕跡を発見

M1と名付けられた2250年前のミイラは生前、長く苦痛を伴う進行性の病気と闘っていた。
彼の背中の下部には鈍い痛みがあって、やがて他の部分に拡がり、ほとんどの動作が苦痛になってしまった。
M1が51歳から60歳ごろに謎の病に屈した後、家族は彼をミイラ化してくれたので、M1は再生し、来世での幸福を享受することができた。
M1とそのCTスキャン図
Credit: (mummy)MNA / DDF - Instituto dos Museus e da Conservação, I.P., Lisbon; (CT, inset) LMP / IMI - Imagens Médicas Integradas, Lisbon
国際的な調査チームが、M1の診断を行った。
M1は古代エジプトで知られている中でも最も古い前立腺ガンによる死亡例であることがわかり、世界中でも2番目に古いことになる。
(最も古い例はロシアのスキタイ人の王の遺体であり、2700年前のもの)
最新の研究結果から、初期の研究では古代におけるガンの普及具合を低く見積もっていたかもしれない、ということが指摘されている。
2005年以降、高精度のCTスキャンによって直径で1~2mmしかない腫瘍でさえも発見することが可能になったからだ。
「この技術がなかったので、初期の研究者はおそらく多くを見落としていただろう」と研究チームを率いているポルトガル・リスボンの放射線科医Carlos Prates氏は述べている。

前立腺は膀胱の下にあって、精液の一部となるミルク状の液体を分泌する器官で、男性の生殖器官には不可欠なものである。
前立腺ガンはここから始まる。進行性の場合は、前立腺ガンの細胞が転移して拡散し、血管に入って骨に浸透する。
リスボンにある国立考古学博物館に収蔵されている3体の古代エジプトのミイラに対して高精度のスキャンを行った後、Prates氏の研究チームはM1の骨盤と腰椎、および上腕と足の骨から多くの小さい、円形の腫瘍を発見した。
これらの特徴は前立腺ガンの転移によく見られるものである。
「この診断結果に疑問を投げかけるような証拠は他に何もみられなかった」とPrates氏は述べている。

研究者チームは長年古代の遺体の人骨やミイラ化した組織からガンの証拠を発見するために研究を重ねてきた。
しかしながら、古代の人々のガンに関する記録は稀である。
実際、1998年に提出されたある研究では、数万に及ぶ古代の人骨を調査した結果、骨からわかる悪性腫瘍は176例しかなかったという。
症例の少なさは、発ガン性物質が食品や環境に含まれるようになり、人が長生きになってより腫瘍が育ち、増殖する時間が増えた現代産業化社会以降にガンが多くみられるようになった、という仮説をより促進する結果になった。

しかし、イタリア・ボルツァーノの研究所でミイラやアイスマンについて研究しているAlbert Zink氏は、古代の人々が発ガン性物質から無縁だったとは言えないと述べている。
煙突や暖炉の木を燃やしたことによって発生する煤は、発ガン性物質が含まれていることが知られている。
古代に船の防水処理として塗られたビチュメンは肺ガンや消化管の腫瘍にも影響する。
「古代にもガンは蔓延していて、我々が観察できる例よりもずっと多かったと考えられる」とZink氏。

現在、形質人類学者は新世代の高解像度CTスキャナーを利用できるようになって、状況は変わりつつある。
例えば、Prates氏らがM1の研究に用いた設備は0.33ミリメートルのピクセル解像度を有し、わずかな病変でさえも可視化されている。

ガンの原因と、ガンの蔓延における環境、食品、遺伝子との複雑な関係を研究する者にとっては、こうした技術の進展は何千年にもわたって存在してきたこの病気に対する新たな光を投げかけてくれるものになる。
「ガンの起源に対するより深い理解が、ガンの治癒に対する貢献となることを期待してやまない」とZink氏は述べている。

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